人生は大きな変化の連続です。なかでも家族の変化は、どのような資質をお持ちであっても戸惑い、先が見えなくなります。
今回、お話いただいたTさんは、50歳の頃にパートナーを亡くしました。パートナーが主導権を握るご家庭で長年過ごされてきたため、一人になってからとても戸惑ったそう。静かに夫・家族を支える役割から、自分の意思を示さなければならない状況への変化は、彼女にとって衝撃的なものだったと思います。
戸惑い苦しむ日々のなかでコーチングを知り、少しずつ自分らしい歩み方を見つけたTさん。今では新たな挑戦への一歩を踏み出し、美術大学進学、展示会等への参加など、創作活動に励んでいます。
Tさんが本来の自分を取り戻していった過程を、お話いただきました。

Tさんのプロフィール
女性 68歳 専業主婦
ストレングス・ファインダー®の資質TOP5:共感性、戦略性、学習欲、最上志向、個別化
コーチングの頻度:導入セッション(3ヶ月)、継続セッション(月1回)
※インタビューはライターが行いました。
「自分で決める」が、できない苦しさ
Tさんがコーチングを依頼したとき、抱えていた悩みは何でしたか?
Tさん14年前に夫が亡くなってから、決断力が働かない自分が顕在化し、自分というものがわからなくなっていました。



戦後の高度成長期の時代背景や、自分の育った環境もそうでしたが、夫たるものは家の大黒柱として、仕事優先で、家族を引っ張っていく。
妻は夫を立て、夫や舅姑に逆らわず、家事をこなし、子ども優先。自分の事は二の次、三の次。



それが、家庭円満につながるという価値観が染み込んでいました。長らく自分の意思というものに蓋をしてきたように思います。
Tさんのような価値観を持つ女性は多いと思います。ずっと耐えていらっしゃったのですね。



「耐えた」という感覚はあまりないですね。それが当然だと思っていましたから。



夫に任せておけば大丈夫。私は口出ししないほうがいい。そう考えて、自分を消すことのほうが得意になっちゃったんだと思います。



なので、夫が亡くなってから、葬儀や相続など、いろいろなことを自分で決めなければいけないのに、それが難しくて。すごく苦しい時期でした。
人が亡くなった後は、判断すべき場面が山のようにありますもんね。コーチングによって、少しずつ落ち着かれたのでしょうか?



そうですね。夫が亡くなった後、コーチングスクールでほしのコーチと知り合って、コーチングも依頼した形です。



コーチングを学び、自分自身のことを考えるようになって、私は絵や造形に憧れをもっていて、それが手放せないほど大切なものだと気づきました。



少しずつ、やれるところまでやってみたいって思って、伴走いただきながら通信制の美術大学への進学も決めました。
大学入学も! すごいですね!



私も、自分はよくやったなって思います。これまでは、私が好きなことにここまで取り組む選択肢はなかったので。



自分でやることを決めると、大きな不安が押し寄せてくるんです。それでも「やってみよう」って動き出せる方法が身についたと思います。
少しずつ、ご自身を取り戻していったのですね。



今でも、人前で表現することはとても怖いですし、自分に対する周りの反応を考えてしまうときもあります。



でも、ほしのコーチとのコーチングや、大学で素晴らしい才能を持った同級生と知り合ったことで、私の「理想像」と「私自身」は切り分けて考えないと、苦しいなって気がつきました。
「憧れ」が自分を傷つけてしまうとき



私はなにか意思決定をするとき、周りへの影響や反応を頭の中でばーっと想像するクセがあります。



「これを言ったら、あの人はこう思うだろう」。「この人はこんな反応があるだろう」って、いろいろな人のあらゆる視点を考えてしまい、迷路に迷い込んでしまうんです。
戦略性と、共感性や個別化につながりそうな特性ですね。



そうですね。最初は全く気づいていなかったけれど、ほしのコーチとお話しながら、私の資質がだんだんと腑に落ちてきました。



どうして私はこんなに迷うんだろう。もっとズバッと決められる人になりたい……。そんなふうに思ってしまいがちです。
憧れって、ときに自分を傷つけてしまいますね。



そうなんです。でも、意外とみな同じように悩んでいると気づいたら、その思考から離れられたと思います。



美大で知り合ったクラスメイトたちに話しかけてみると、私から見れば素晴らしい切り口やアイデアを持っているのに、当の本人は全然ダメだって落ち込んでいるのです。
クリエイターあるあるかもしれませんね。



そうですね。最上志向が邪魔をしているというか。
※「最上志向」Cliftonstrengths®️の資質名
(現状をよしとせず「もっと」と上を目指す特徴を持つ)



私から見れば、みんな素晴らしい。課題に対する切り口も、出来上がった作品も本当にすごい。
Tさん自身の作品には、どんなふうに思っていましたか?



自分の作品はダサいな、デザインセンス無いなーと思いました。



ただ、そんなふうに思っていた作品が、思ったより良い評価をいただいてびっくりしたんです。



自分にとって全然ダメでも、第三者には評価してもらえる部分がある。こういうものなんだって身にしみて感じて、やってみた後のリスクを大きく捉えすぎず、今の自分を見てもらうしかないんだよなって気づけたと思います。
思考の深みにハマる「深刻ツボ」から脱出するには
コーチングで印象的だった出来事や、言葉はありますか?



私はときに深刻に物事を考えてしまうクセがあるのですが、そんなとき「深刻ツボにハマっているのでは」と、声をかけていただいて、納得したのを覚えています。



悩みが膨らんだとき、「これは深刻ツボだ」「どうしたら出られるかな?」と、俯瞰して考えられるようになりました。
深刻ツボ、面白いネーミングですね。



ほしのコーチと話していると、深刻な悩みを笑い話に変えていけるんですよね。4コママンガのように、深刻な悩みから、コミカルなオチを想像するとラクになります。



深刻ツボに知らず知らずはまっている自分に気づくことで、「苦しくなったら出よう」って考えられるようになったんです。



私、ほしのコーチを「とげぬき地蔵さま」だと思っているんですよ。
わかる気がします(笑)。



セッションを受けると、心のトゲを抜いていただいているようで、すごくラクになるんです。



実は私、大学卒業に8年近くかかってしまって。自分一人では行き詰まり、好きで始めたのに苦しんでいる自分に疑問を持ち、「いったい私は何をしているのだろう?」「これを続けていていいのだろうか」と思うことも多々ありました。



パソコンでレポートをまとめたり、専門のデザインツールに触れたりすることが、すごく苦痛で。



それでもずっとほしのコーチに伴走していただき、何度もトゲを抜きながら、今年の春、無事に卒業制作を終えました。
長い時間、ご自身の苦手と向き合ってきたんですね。ちなみに卒業制作のテーマは?



『たんぼのきれい』です。



義父母から譲り受けた田んぼは夫とやるはずでしたが、今は子どもたちに手伝ってもらいながらやっています。
田んぼの手入れを、自分が主体的にやるようになって、田んぼへの眼差しが変わり、美しい姿をたくさん発見したのです。
この体験をもとに『ちいさなたんぼはきれいがいっぱい』という絵本を制作しました。





8月に川口市の絵本フェスタで販売します。大学の同級生……、と言っても、みんな若い人たちなんですが、参加してみようかなと思って。
すごく素敵!



米作りのため田んぼへ毎日行くようになり、すごく綺麗な景色に出会えて感動を覚えたんです。人と動植物と自然が共生しながら循環していて、田んぼでなければ味わえない面白さがたくさんありました。
米作りは大変なこともいっぱいあるけれど、それよりもたくさんの良いところが伝わったらいいなって。
迷いながらも進み続けて得た気づきが、この卒業制作に詰まっているのですね。



そうかもしれません。以前は「どうせできない」「無理」と思ってできなかったけれど、今は違います。
やると決めて動けば何とかなる。失敗も良い経験で、その積み重ねが大切だと思えるようになりました。



人と比べても落ち込むだけ。「すごいな」って思うのは良いことですし、良い刺激ですが、自分とは全然違うものだということを理解するようになりました。



私の一歩を、急かさず見守ってくれたコーチのおかげで、自分を生きることに前向きになれたと思います。
数十年前は当たり前だった、「言わぬが花」の価値観をお持ちの方は多いと思います。個の時代と言われる現代において、この価値観はときに心を苦しめてしまうでしょう。
長い間、本心に蓋をしてきた方にとって、自分の思いを素直に受け止め、表現するまで非常に長い時間を要します。無理に変えるのではなく、受容し、理解することがまず大切です。
ほしのオフィスでは、コーチングでは、クライアントのありたい姿や、これまでの経験としっかり向き合う時間を設けます。ご相談はお気軽にお声かけくださいね。












